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ゆるゆると粛々と人生ゲームを行く。

Posted by さおる。 on 12.2017 日常 12 comments 0 trackback
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ようやく移動できたのに。

前の病室とおなじフロアにある 広々とした個室にはもう義兄の姿はなかった。
ICUから戻った姉は 片隅に置かれた2人掛けのソファに座って小さく見えた。

わたしが運んできた食べ物の礼を言って。
11月の斜陽がカーテンの合間から姉を照らす。
間の抜けたような明るい日向に浮かぶ姉は
アンドリューワイエスの描く女のようだと思った。

綺麗だと思った。



いつか姉のことを綺麗だと思った。
あれは一緒に暮らしていたわたしが十代最後のころ。
姉は22か23だったのかな。
肩よりのばした髪をバービー人形のようにくるんと外巻きにして。。イブサンローランの服を着ていたと思う。
2人でどこかで食事をしていて、
隣のテーブルの男性が何度も姉を見ていて
しまいには向き直って声をかけてきた。

綺麗だもんな。って思った。



姉は泣かなかった。
一度しか。



華やかに色付いたプラタナスの街並み横目に見ながら
数日通いつめた病院に 連絡をもらい慌てて駆けつけたとき。
姉はちょうどICUから出てきたところだった。

今息を引き取った。 とそう私に告げた目には涙が溢れていた。


お義兄さんはインド哲学の先生でいろんな遺跡を訪ね歩いて写真集を作ったりして私にもくれていたので
あまり話さなくなったお義兄さんとの時間を過ごすために
その写真集を病室に持ち込んだ。


ベトナムのランタン祭りのこと。
お土産にもらった漁をする舟の絵の事。
アユタヤの涅槃像のページを開き。。
カンボジアのアンコールワットの滅びゆく遺跡を広げて見た。

遺跡を飲み込む太い沢山の榕樹の根。

これってガジュマル?と聞くとそうだと応え。

生きている物は強ですね。こんな遺跡も覆い尽くして壊していくんだから。。
と言うと。 うん。と答えて。

お義兄さんが石の門をくぐると、ピシピシと 崩れゆく小さな音。はそこかしこから

響いてきたと教えてくれた。


生命は頑強な石の館までを無きものにする。強い力。
しかし命は限りがあるもの。


お義兄さんは、お寺と姉と三人の子供を置いたまま、インドへ行ってしまう。
恒例の年末。

少し時を置いて届く異国の土産。
山ほどのお香に、高級茶葉。刺繍の施されたショルダーバッグに
説明が読めない謎の香辛料。 陶器の一輪差し。。。

一番うれしいのは義兄の作った色んな国の色んなカレー。。。



でも今度は本当に行ってしまった。



豪放磊落 という言葉が当てはまる男の人はカッコいいと思う。でもそれが夫だったら、父だったらどうなのだろうか。
お義兄さんはまさにその言葉が当てはまる稀に見る人だった。




姉と私は同じ夢を見る。
繰り返し繰り返し。


また最近その夢を見たことをラインで伝える。
2人で住んでいた部屋。 5階のB号室。
まとまったお金があるから今度こそ隣に住む大家さんのところに行って何年分も
溜まった家賃を払おうと思う。
いや。ここに住んだのは2度目だから、数ヶ月分払えばいいんだとおもいなおして,。。。



今回もまた完済する事なく目が覚めた。



同じ夢を見るんだ。
滞納した事なんてなかったのに。。。


あの部屋を明け渡したくないんだ。
泣いたりもした。わらったりもした。あのころの私を。




大きな本堂に布団を二つ並べて
お義兄さんの姿が消える前の晩。
2人で寝たんだ。



さおるが困ったときは助けるからね。と姉は言ってくれた。



姉はみんなの前で、堂々とできる人なんだ。
住職になる事を告げる姉の背中には
黄金のタテガミがみえたよ。




人生ゲームは粛々と続く。







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幸福のセキレイ
  

プロフィール

さおる。

Author:さおる。
はじめまして。さおるです。絵を描き、詩を詠い、さまよい生きるものです。  
一人語りのような場所ですが、お付き合いよろしくお願いします。
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